宿命 習近平闘争秘史
峯村健司『宿命 習近平闘争秘史』文春文庫、2018
これは以前単行本で出ていた、『十三億分の一の男』の文庫化。しかし、前著が2015年までの情勢をもとに書かれてから、3年分の情報を追加して書き直されているので、新しい本として成立している。
内容は新聞記者の本としても、一番いい部類の出来。ここまでできているのかと思うくらい、おもしろい。また事実関係が新聞や文献頼りだけではなく、内部関係者にかなり食い込んでなされていて、記者でなければ書けないようなものになっている。
この本で一番驚いたのが、習近平の、周永康、徐才厚、薄熙来に対する粛清の真相。単なる派閥闘争ではなく、もちろん腐敗打倒というようなものではない。実際は、軍を掌握する徐才厚と治安部門を掌握する周永康が連合して薄熙来をかつぎ、習近平を武力で打倒して取って代わることを企てていたというもの。
ただの腐敗摘発ではないだろうと思ってはいたが、そんなにすごいことになっていたとは知らなかった。もともとその前の胡錦濤と江沢民の権力闘争がひどく、胡錦濤時代に大した政策が実行できなかった理由は、胡錦濤がやろうとしていたことをことごとく江沢民が邪魔していたから。周永康も徐才厚もこの派閥に連なる人で、自分の権力が危なくなってくるとそれを守るために実力行使しかないとこの挙に出た。
集団指導とはいえ、中国の権力闘争は負けたら財産も権力も引き剥がされ、一生監獄で暮らさなければならないもの。これがある限り、一時は集団指導ができたとしても、結局は個人独裁に近いことになっていく。もはや敵がなくなった習近平が個人独裁になったとしても、驚くにはあたらない。
自分の間違いがいろいろと正されたし、ちゃんと日々のニュースを入れる必要も痛感させられた。