イスラームとの講和

内藤正典中田考イスラームとの講和 文明の共存をめざして』集英社新書、2016


この二人の対談本なので、だいたいのことは見当がついていたが、基本的には、イスラム世界と西洋世界は、距離をとって共存すべきという議論。

しかし共存といっても、実際にはどうするのか。難民は引き取れ、人権を振り回すな、テロと言うな、イスラム圏への爆撃をやめろというようなことですら、現実にはむずかしい。難民の引き取りだけでも無理。アメリカもヨーロッパも、そんなにイスラム圏に対して寛容にはなれない。

人権は西洋世界の根幹で、それを振り回すことが彼らにとってのアイデンティティイスラム世界に対して布教をやめろと言っても無理だろう。まして、信教の自由を否定とか、フランスの世俗主義をやめろとか、できるわけがない。

とはいえ、書かれていること自体はおもしろく、トルコのエルドアンは、実質的にカリフの立場をめざしているというのは納得。カリフと言っても、スンナ派世界のものでしかなく、スンナ派シーア派の共存ですら無理なので、そういうものでしかないが。

内藤も中田も、「地政学」には非常に否定的なことを言っている。しかし、いわゆる地政学者とは違っているかもしれないが、この二人が、「スンナ派ベルト」とか、「トルコの構想」について述べている時の発想は、非常に地政学的。気づかずに、地理的な要素に思考が引き寄せられること自体が、地政学的な考え方なので、このこと自体もおもしろい。