「読まなくてもいい本」の読書案内

橘玲『「読まなくてもいい本」の読書案内』ちくま書房、2015


非常にインパクトの強い本。著者の本は何冊かは読んでいたが、このくらいの裏付けがあったのだ。この本は、学問の最前線にあたる分野、複雑系、進化論、ゲーム理論脳科学功利主義の5つの分野を設定して、そこでの発見が従来の人文社会科学や自然科学に対して、破壊的なインパクトを持つことを示している。

これはいままでの人文社会系の学者(自然系は知らない)の一部がうすうす感じていたこと。現実に、一部の学者はこの方針で研究している。しかし、これだけの分野で、それぞれの新しい分野の知見が、いままでの知的な学問体系にどのようなインパクトを持っているかを説明できている本ははじめて読んだ。

ひとつひとつの分野の専門家ではなくても、幅広い分野の本を読むことで、各分野の知見を横につないでいくことには意味がある。このことの重要性を示した本。

著者のいうとおり、本の数は多すぎ、人生は短すぎる。社会科学を始めるのに、マルクスから読まなければならないのであれば、それだけで終わってしまう。それはむちゃぶり。したがって、新しい知見を示している本から順番に読むべき。古い本はもはやあまり相手にしなくてもよい。むしろ古典を読むのであれば、文学にしたほうがまだましだろう。

詳細なブックガイドと解題がついていて、これから読み始める人に対しても非常に親切。名著といって差し支えない。