テロ

F.v.シーラッハ(酒寄真一訳)『テロ』東京創元社、2016


この前に見た舞台「TERROR テロ」の脚本。こちらはこちらでおもしろい。

上演台本は、これとそんなに違っているわけではなく、ほぼ同じ。ただ、長いセリフが多いので、こちらの方が、内容を反芻できるという楽しみはある。本質的には法律論をしているのではなく、倫理の話。

ロッコ問題は、注目点をどこにするかで、まるっきり結論が変わるものだが、この場合には、「人命は、それ自体が価値であり、数として測ることはできない」という主張と、「現実には、人命を多く残す選択肢と、少なく残す選択肢が存在する」という主張の対立。これが、「テロ」が現実に存在するという社会で議論されているので、アメリカやテロ攻撃にさらされているヨーロッパ社会では、「人命をより多く残す選択肢を選べ」という主張が支持されていることはうなずける。

この本のおもしろいのは、巻末に、「シャルリー・エブド事件についての著者のコメント」が入っていること。著者の主張は、「テロとは戦うべき。シャルリー・エブドは、活動を続けるべき」と断定するもの。この主張を、この本の著者がしていることに意味があるのだが、著者の立ち位置は、「テロとは戦うべき、社会の自由は宗教的象徴を風刺することを含む」というものなので、そういう態度そのものがテロ攻撃を引き起こしていることにもなる。そうであっても、著者が態度を変えるということはない。むずかしい話。