この自伝評伝がすごい

成毛眞『この自伝・評伝がすごい』KADOKAWA、2017


書評サイトの主催者で経営者の著者による伝記の書評本。

カバーしているのは経営者、学者、スポーツマン・芸能人、政治家、歴史上の人物。

経営者のところは、確かにおもしろい。それから、スポーツマン・芸能人(取り上げているのは、岡崎慎司桂米朝、十八世中村勘三郎タモリ)もおもしろい。それはいいのだが、他はどうなのか。

学者は、ラマヌジャン(インド出身の数学者)、山中伸弥中村修二。この記事そのものはおもしろいが、学者としての仕事の評価がない。山中伸弥中村修二は同時代の人だし、ノーベル賞受賞者だからいいが、ラマヌジャンは、単に頭のいい変わった人みたい。

政治家も、微妙。取り上げているのは、田中角栄小泉純一郎安倍晋三(これは例の山口敬之の「総理」なので、けなしているが)、チャーチルニクソン。前の3人はともかくだが、チャーチルニクソンは、著者がよく事績を理解しているわけではないので、政治家としての評価ではなくなっている。

さらに、歴史上の人物となると、保科正之徳川綱吉横井小楠。著者は、取り上げた伝記一冊以上のことはよく知らないわけなので、この評価はどうなのか。これは書かないほうがよかった。

著者は、「教養など不要。現在の視点から読めばよい」と断言している。それは著者の立場だからいいが、同時代の人物ならともかく、昔の人物を歴史のことをよく知らない人が見ると、まともな評価はできない。たくさん本を読んだからといっても著者は歴史学者ではないし、ことさら歴史のことをよく知っているわけではない。それで歴史の本を評価するのはまずくないか?

人物おもしろ評というのなら、それでいいが、基本的に著者の評価を信用できるのは、経営者とか、著者がわかっている範囲の人物のみ。まあ、知らないことにあまり首を突っ込むのもどうかとおもう。