あざむかれる知性

村上宣寛『あざむかれる知性 本や論文はどこまで正しいか』ちくま新書、2015


著者は1950年生まれ。元富山大学教授、心理学者。この本は、ダイエット、健康、ビジネス、幸福感の4つの分野で、正しい説と間違った説は何なのか、どうやってその区別をつけるのかという問題を、学術論文のシステマティックレビューを通じて明らかにした本。科学的方法の入門書。

最初に、科学の基本的な方法論が説明され、その後各論がある。著者が強調していることは、どの分野であっても、科学的知見はつまみ食いで個別の論文だけ見てもダメで、メタ分析をもとにして、効果を量的に評価できなければいけないということ。科学者としては当然の態度だが、一般人はこれがわからないので、妥当な知識は何かということを評価できないままに、いい加減な知識を信じ込んでいることが多いというはなし。

特におもしろかったのは、ビジネス書の間違いを指摘した章。多くのビジネス書は、ハロー効果、相関関係と因果関係の混同、成功例のみの抽出、客観的なデータの欠如という理由で、科学的に正しい知識を伝えていないという結論。これは非常に納得。

具体的には、アクティブ投資の実績、大学での教員評価システム、精神疾患診断マニュアルの用法、企業の人事採用方法。人事採用については、面接は面接者の能力がない、面接方法が標準化されていないという理由で、役に立たない。統合テストもあてにならない。職業の種類でも、勤務成績でも、相関が高いのは一般知能。つまり頭がいい人が仕事ができるということ。日本では学歴が一般知能を近似すると思われているが、学歴や職業と関連付けられた知能テストが行われていないので、学歴と一般知能の相関はわからない。

日本の企業採用では協調性が重視されるが、職業的成功と協調性の相関関係は確認できない。またSPIの性格検査と職務遂行能力の評価はほぼ関係ない。著者が支持する採用方法は、採用面接はやめる、良識が高く、情緒不安定でなければ頭のいい人がどんな仕事でもこなせるはず。年齢、性別、興味、やる気は関係ないので無視。結局、学力検査しかあてにならないので、それだけで十分だという結論。人を見てもわからないから、見ないで選べというもの。これは多分そうだろう。面接で明らかに変だとわかるのは、よほどおかしい人の場合だけ。面接のコストを考えれば割に合わない。それでも面接で採用を決めたがる傾向は簡単には変わらないだろうが。