感情で釣られる人々

堀内進之介『感情で釣られる人々 なぜ理性は負け続けるのか』集英社新書、2016


これはけっこうおもしろい本。タイトルを見ると、「感情で釣られる」人間の性質を批判しているように見えるが、むしろ、簡単な仕組みを工夫することで感情を誘導してみようという趣旨。

著者の肩書は政治社会学者、現代位相研究所主任研究員となっているが、よくわからない。基本的には、社会哲学よりの人だが、広くものを読んでいる。

リベラル、左寄りの価値観を持っていて、それをベースに話をしているので、その部分は鼻につく。しかし、それを横において、著者の言っていることを感情と理性のあいだで、上手にバランスをとるための方法論として読めば、どの立場でも役に立つし、ただの説教ではない。

これまで、社会科学は個人を突出して取り出しすぎた。個人が判断をしているとしても、個人は一人で判断しているのではなく、他人との感情的な結びつきの中で、どのように行動するか、何がいいのかということを決めている。人間の行動を底の部分で左右しているのは、感情。とはいえ、感情はいろんなものと結びつくことができるので、結果は結びついたもの次第。

著者が言っているのは、感情を根本から否定するのではなく、感情を理性の方に寄せるために、それを利用するようなシステムの工夫をすること。ナッジ(行動経済学でいう、選択肢の簡略化のための方法)を使うことをすすめている。それを使って、「感情に釣られる」ことに対策を立てることができるという話。

自分は著者のいう意味での理性にあまり賛成できない(そういう感情を持っている)側だが、政治や市場でいろいろな人々が使っている「動員戦略」を理解することが必要だという主張には同意。全部を意思の力とか、個人の努力でなんとかすることは現実的でない。

巻末の参考文献リストにはていねいな解説がついていて、これも有用。非常に親切な本。