性のタブーのない日本

橋本治『性のタブーのない日本』集英社新書、2015


世評の高かった本だが、いまごろ読んだ。非常におもしろい。

平安時代を中心に、上古から近世までをカバーする、「文学と社会における性」についての本。

平安時代の文学での性表現がいちばんおもしろい。普通の語釈だと、わからない/説明されていないことが性表現になっている。昔の日本語には、「セックスする」に相当する言葉がなく、「逢う」「見る」という言葉の中に、性交するという意味が含まれている。それは、性関係だけを特別に取り出してくるという考え方がないから。

従って、「逢い見ての後の心に比ぶれば昔は物を思はざりけり」の、「逢い見て」は、その中にセックスしたという意味が含まれていて、それは比喩とか、婉曲表現ではないもの。逢う、見るということが、平安時代の貴族社会では、セックス込みでのもの。平安時代の結婚習慣が、どのようなものだったか、そのためにどのような手続きが必要だったかについて、これまで断片的なことしか知らなかったので、この本でやっとわかった。これがわからないと、近世以前の文学は読んでも肝心な部分がわからないことになってしまう。

江戸時代の遊郭の煩瑣な慣習は、平安時代にあった結婚儀式をごっこ遊びとして真似たもの。だから3日通わないとセックスできないことになっていたので、そういう儀式込みで遊郭を楽しめることが「遊び」。それができていたのは、富裕層だけ。江戸時代には、性表現、性交を「風紀の乱れ」と考えることがすでに始まっていたので(だから、性についての規制は近世初期か、もっと前からあった)、遊郭設置についての公の許可とか、いろいろとめんどうなことがあった。

上代から近世の文学を広く読んで内容を掴んでいる橋本治だから書ける本。まあ、自分が昔の文学をろくに読んでいないからということもあるが、こういうことは普通の現代語訳を読んでいるだけではわからない。