もうダマされないための「科学」講義

菊地誠、松永和紀伊勢田哲治平川秀幸飯田泰之+SYNODOS編『もうダマされないための「科学」講義』光文社新書、2011


科学と非科学を区別する「線引き問題」を主に扱う本。とはいえ、線引き問題も簡単には割り切れない。

菊地誠「科学と科学ではないもの」は、線引きは可能だが、はっきりとした1本の線で二分できるようなものではなく、グラデーションで科学と非科学はつながっているとする。しかし、「だから線引きはできない」というのではなく、「グレーゾーンはあっても、これは科学、これは科学ではないという領域はある」という立場。

伊勢田哲治「科学の拡大と科学哲学の使い道」は、体系的な、プロの科学者の営みとしての科学(モード1科学)に対して、蓄積された経験値や現場の勘からできている知(モード2科学)を対置して、モード2科学を取り込みながら線引きを行うことを提案する。

松永和紀「報道はどのように科学をゆがめるのか」は、報道が「わかりやすいこと」を求める結果、科学がゆがめて解釈される問題を扱う。一般人や政治家の自然信仰、ゼロリスク幻想が、科学に介入すると、科学的な評価ができなくなるという問題。

平川秀幸「3・11以降の科学技術コミュニケーションの問題」は、「一般人は科学知識が足りないから、科学に不安や抵抗感を持つ」という欠如モデルの問題点を扱う。科学的にすぐに答が出せないような問題に対しては、科学は社会に対して、啓蒙ではなく、対話で接近しなければ仕方がないという議論。

片瀬久美子「放射性物質をめぐるあやしい情報と不安に付け込む人たち」は、原発事故に関係したデマや誤情報を扱う。煽りや商売、それに乗せられた人は今でもいるのだが、この本が出た時点では、そういう話はずっとたくさんあった。


どの章もおもしろかった。ちょっと昔に問題になったことはよく知らないうちにスルーしていたこともあったので、再確認もできた。科学的なトレーニングなど、自分も含めてきちんと受けていないことが多く、よく知らないリスクについてはパニックが起こるのは簡単。特に原発事故の後は、この問題は深刻。