小学校中退、大学卒業

花柳幻舟『小学校中退、大学卒業 「放送大学卒業論文─メディアの犯罪、その光と影─』幻舟文庫、2009


タイトル通り、花柳幻舟放送大学での卒業論文をそのまま本にしたというもの。だいたい小学校中退で、高校も卒業していない(と本人が言っている)人が、どうやって放送大学に入学できたのか、よくわからない。

内容は、自分が創作舞踊を始めてから、メディアにどのように取り上げられてきたか、メディアが自分の姿をいかに歪めて報道してきたか、ということへの恨み節。

あとがきに、放送大学で「これは卒論ではない」と言われたが、指導教員から「こんなに面白い卒論はないだろう」と言われて通してもらったと書いてあるが、その通りで、引用注をつけて学説の中に自分のアイディアを位置づけるという意味での論文ではなく、自分の恨み(標的は、家元、メディア、天皇)体験を書きまくるというもの。

創作舞踊だったら、最初から日舞に入門などしなくてもよいのではないかと思うが、著者はとにかく金目当ての家元に腹がたって仕方がないらしく、家元制度の拝金主義を激しく攻撃。

しかも、そのことをメディアで訴えても、まともに記事にしてもらえない(それはそのとおり)ということから、著者の怒りはメディア(だいたいスポーツ紙や週刊誌)に向かう。著者の周りの人々は、「取り上げてもらったのだから、それでいいんじゃないの」という反応(大島渚とか)。メディアなんか自分の名前を売るための材料なのだから、その程度でいいと思うが、著者はメディアが事実を盛ることが許せないので、「なぜ自分の言ったことを正しく書かないのか」と怒っているのである。

メディアの商業主義とか、何をいまさらと思うが、著者は自分が「ネタ」にされることに腹が立っているし、自分が虐げられているのに、家元が儲けているのが腹が立って仕方がない。そして怒りは天皇に・・・。

著者が歴史家の羽仁五郎と親交があったことをおもしろおかしく書き立てられたことにも怒りが募っている。そんなにいちいち怒っていたら、たいへんだろうと思うが、そういう人。

著者は、まだ存命の人だが、とにかく情念と怒りの人。あきらめるということがない。それで怒りを行動(家元を刺すとか、天皇に爆竹を投げるとか)で表しているのだから、それはキチガイ扱いされるだろう。

もはやこんな人も少なくなってしまったので、この本もその貴重な記録。年をとっておとなしくなるということはこの人については、ない。