お祈りメール来た、日本死ね

海老原嗣生「お祈りメール来た、日本死ね  「日本型新卒一括採用」を考える」文藝春秋、2016




大学生の就職、雇用問題の本。学生の就職活動が問題として取り上げられる時によく言われることが、「新卒者を一括採用する日本の雇用慣行が問題だ」という話。しかし、それは本当なのか、アメリカやヨーロッパはどうなのか、というのが、この本の問題意識。


アメリカやヨーロッパは、人は会社に張り付いているのではなく、職務に張り付いており、職務能力なしには採用されないし、その職務から動くことはない。


従って、新卒者はそもそも雇用されにくい。インターンシップは、低賃金で学生をこき使う代わりに、職務経験を提供するもの。こういう機会を使わないと、労働市場に参入できない。幹部候補として入社するのは、超エリート校出身者だけ。それ以外は、配置転換も昇進もなく、一生同じ仕事につくのが当たり前。


しかもヨーロッパでは、大学へのコースは人生の早い段階で決められていて、最初から大学など行けない人が多い。定時退社が当たり前なのは、非エリートは残業する理由がないから。安い給与で、昇進可能性がないのに残業などするわけない。


日本は職務能力がない人を可能性で採用して、どんな仕事でもOJTで覚えさせる社会。だから広い潜在能力や人間関係、忍耐力などが評価される。新卒一括採用も、このシステムの結果。


採用制度は、雇用や労働、教育システムと関係する全体の一部なので、特定の部分だけ切りだして取り替えようとしても簡単にうまくはいかない。日本の制度が、アメリカやヨーロッパと比べてよいのかどうかは、社会全体の比較になるので、簡単には言えず、部分的な改善はできても全部を変えることはむずかしい。


理想化されがちなヨーロッパの労働事情がわかって、とても勉強になった。ヨーロッパで移民反対が強い理由も非常に納得がいく。