現代美術コレクター

高橋龍太郎『現代美術コレクター』講談社現代新書、2016


高橋龍太郎の「現代美術+現代美術をコレクションすること」についての本。まあ、高橋龍太郎はおそろしい。ちょっと前に、この人の個人コレクションの展覧会が、オペラシティのギャラリーで開かれていたが、「これも、これも、この人が個人で持ってるの???」と呆然。精神科医って、そんなに儲かるのかとふしぎでしょうがなかった。

高橋龍太郎の資金源は、本業の医者としての収入もあるが、資産運用(株や外国の土地)で得たもの。徳洲会くらいの巨大組織はともかく、個人クリニックでそんなに莫大な収入があるわけはない。

この本で高橋龍太郎が強調していることは、美術に向かう姿勢は「マインドフルネス」、つまり心を解放して雑念なく、作品に集中しろということ。よけいなことはいらないし、直感以外はいらない。でないと、価値はわからないということ。実際は、高橋龍太郎は古今の美術は見まくっているので、知識をもとにした解釈はできるのだが、それは後ですればいいことで、作品に対しては、とにかく向き合うしかないということ。まあ、本当に好きでなければコレクションなどできないのだから、それしかないだろう。

松方コレクションの松方幸次郎が収集に使った金が600万円で、現在価値で120億円だという。個人の金だと思うと多額だが、持っている人は持っているし、それであれだけ作品が買えたのだからそっちのほうがすごい。

「損をしないためには、1作品最低500万円、より安全性を求めるなら1000万円払え」と書いてある。お金持ちには別にどうということはないだろうが、これにビビらないくらいの人がコレクションに参加できるということ。著者自身も言っているが、そもそも作品を持っていると「置き場所問題」が発生するので、そのためのお金も必要。

しかし、1997年に会田誠の「紐育空爆之図」が100万円で売りに出ていたとあるので(もちろん、この時の会田誠は無名の人)、まめに買っている人にとってはボーナスもあるということ。その1年後くらいに「巨大フジ隊員VSキングギドラ」を160万円で買ったという。2007年に、保有点数が500から600点だったというので、今ではいくつ持っているやら。

自分は高価なもののコレクションは無理。そもそもものを大事にしない。家にも置くところがない。しかし、損得は別として、好きなら買うのはアリ。宝石や服や何やらを買っている人もいるし。

日本の美術館の問題は、建物だけに金を出すのに、コレクションの予算は出ず、都道府県や市町村が自前の美術館を建てようとするので、コレクションそのものが分散することだというのは納得。バラバラに地方に置くよりも、東京に集中させたほうがいいに決まっている。