大本営発表

辻田真佐憲『大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争』幻冬舎新書、2016


精力的に著作を発表している著者による、太平洋戦争における「大本営発表」の歴史本。大本営発表は、1937年から、1945年まで行われていて、日中戦争時の当初は地味で、そんなに外したことは少なかったが、1942年の珊瑚海海戦くらいから後は、どんどん戦果水増し、損害隠蔽だらけになっていく。戦局不利が明らかになってくると、「転進」「玉砕」で敗北を糊塗するようになっていき、末期はデタラメだらけで、聞いている方からも信用されなくなっていったというおはなし。

著者はきちんと資料にあたっているので、記述そのものは信頼できる。大本営発表の問題は、敗北をごまかしたい陸海軍と、かんたんにその情報に飛びついたメディアにあったし、そもそも陸海軍は正確な情報を持っておらず、その不正確な情報をさらにごまかしていたというもの。東條首相の報道介入や、発表をめぐる陸海軍の対立についてのエピソードもおもしろい。

残念なのは、最後の部分での著者の「メディア説教」。著者がこの本でしていることはメディア研究の一部だが、著者は、政治権力とメディアの関係について、浅い見識しか持っておらず、表面的に「メディアの独立性の必要」を言い立てるだけで終わり。そもそも、この問題について深く考えた形跡がない。歴史家の仕事の限界をよくわかっていれば、浅い説教でそれまでのきちんとした調査を台無しにする必要もないことがわかるだろうに。ざんねんなこと。