戦争の社会学

橋爪大三郎『戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門』光文社新書、2016


橋爪大三郎の、「軍事・戦争入門書」。ぜんぜんこの分野について知らない人は読んだほうがいいかもしれない。しかしこれは危ない本。『ふしぎなキリスト教』とその批判本を読んで、著者が危ない人だということはわかっていたが、この本ではっきりした。

この本のいいところは、古代から始めて、中世、火薬革命、ナポレオン戦争、第一次、第二次大戦、冷戦、現在まで全部カバーしていること。また、クラウゼヴィッツ、マハン、グロティウスを内容を引用して詳しく紹介していること。その上で、新書1冊分におさめていること。非常に読みやすいこと。これはこの本の功績。

しかし、ほかはいけない。最大の問題は、内容が不正確だということ。それも誤字とか年代の間違いというレベルではない。一つの章について、数カ所以上間違いがあることが多数ある。看過できない程度にひどい。

ナポレオン戦争の箇所、「絶対王制の軍隊は五万人、一○万人ほどだった」(ルイ14世時代にフランス陸軍は三○万人規模)、「ナポレオンの新機軸は行軍の方法だった・・・。食料や飼い葉は現地調達することにした」(現地調達は、古代から一貫して行われてきた方法)。

クラウゼヴィッツの箇所、「「戦略的予備軍」を置くのは、やめたほうがよい。予備軍はあくまで戦術的なものである」(戦略予備はあるし、不可欠)。

マハンの箇所、「戦艦で、運動性能で劣るものがあると、戦列艦から外れ・・・」(戦艦と戦列艦は全然別の艦種。時代によって船の呼び方が違うことを知らない記述)。

この調子。特に日本軍批判の章はひどく、1923年版の「統帥綱領」の記述に基づいて日本軍批判をしている。その内容は、毒ガス使用を肯定している、機械化をまったく前提としていない、というようなもの。1923年なら、それらはあたりまえ。化学兵器使用は、報復使用であれば違法ではないし、第一次大戦でその理由もふっとんだ。1923年に機械化されている軍隊などない。基本的な歴史を知らない。

著者はこの本の内容を、東京工業大学の「軍事社会学」の講義としてしていたと言っている。そりゃアカンでしょう。戦史家が聞けば目を回すような話。基本的な勉強をしないと、入門書は書けません。