B-CAS事故 '8674422'

鳥取ループ『B-CAS事故 '8674422' 2012年テレビ視聴制限崩壊の真実』示現舎、2013


2012年にB-CASカードのプロテクトが破られて一部で大騒ぎになった事件の顛末を書いた本。この問題、出版物としてはこの本と『ラジオライフ』以外ほとんど取り上げているものがないという変な事件。新聞には、プロテクト破りのカードで逮捕された記事ばかり載っていて、新聞もテレビ局の出資者であり、利益共同体なので都合の悪いことは書かないという基本的な事実を認識させられる。この本の引用注を見ても、ほぼインターネットソースのみ。

この本は、B-CASカード事件の事実史にとどまらず、デジタル放送の仕組み、DRMB-CASカードのDRMにおける役割、暗号鍵システムなどの基本的なことを素人になるべくわかりやすく説明している。時間をかけてきちんと読んでいけば、この問題についておよそのことがわかるようになっている。

それだけでなく、この本の特徴は、暗号鍵のどの部分が破られたのか、はっきり書いていること。タイトルの「8674422」はヤキソバンがツイッター上で暴露したB-CASカードのバックドアの鍵。この本に書いてある暗号破りツールを検索すれば、B-CASカードを破ることは今でもできてしまうだろう。

また、その後の事件の推移、つまりBLACKCASをネットオークションで出した人、B-CASカード書き換えプログラムをネットに流した人、この事件の情報をネットに流した人の逮捕と裁判についても書かれている。このうち、情報をネットに流した人は、容疑が何なのかわからなかったのだが、「私電磁的記録不正作出供用罪」。これを適用することは相当グレーだと思うが、この本に、「適用可」とする慶応大学法科大学院の安富潔の「意見書」がついている。

結果的には数人を逮捕しただけで、カードシステムに対する対策は何も取られていないのだが、カード破りの前後で有料放送視聴者の契約数はほとんど変わっておらず、実害がどのくらいあるかどうかはわからない。とにかく臭いものには蓋という安い解決策で片付けられた事件。笑うしかない。