アデナウアー

板橋拓巳『アデナウアー ─現代ドイツを創った政治家』中公新書、2014


アデナウアーの評伝。1949年に西ドイツ初代首相に就任してから、1963年まで、14年間にわたって西ドイツの首相を務めたのだから、西ドイツ国家の基盤を据えたのは、アデナウアーの功績。

しかも、アデナウアーは、西側との同盟、欧州統合、独仏枢軸、対イスラエル補償など、西ドイツを西側諸国の不可分の存在として確立していたので、単に状況に流されて西側同盟に与していたわけではない。特にイスラエルとの和解、補償政策は、国内の反対を押し切って、アデナウアーの個人としてのイニシアティブで押し切ったもので、彼以外の指導者には簡単にはできなかっただろう。

日本がアメリカのほぼ単独占領で、自動的にアメリカとの同盟に入ったのに比べて、西ドイツは、ソ連占領地区と分割されていて、再統一やオーデル・ナイセ線問題を抱えていたし、国内のナショナリズムも強かった。何より、ナチ時代との決別という大きな課題を抱えていた。日本の首相たちに比べて、アデナウアーの抱えていた困難は格段に大きかった。

この状況で西ドイツ復興をひとりで行ったようなものだから、アデナウアーの業績は隔絶している。資料の関係で、この本では主に外交政策に焦点があてられているが、14年間、ずっと選挙に勝ち続け、西ドイツ国内でのCDU政権を盤石にできたこともアデナウアーの功績。

独仏枢軸での、西ドイツ核武装、対米関係問題の役割にもきちんと触れられていて、西ドイツのおかれた複雑な立場が再認識できた。巻末の文献リストを見ても、並でない量の文献をこなして書かれたことがわかる。労作といえる。