偶然完全 勝新太郎伝
田崎健太『偶然完全 勝新太郎伝』、講談社文庫、2015
著者はノンフィクションライターだが、かつて週刊ポストの記者として、勝新の人生相談企画に噛んでいた人。つまり勝新を直に知っている人。勝新の評伝は、春日太一『天才 勝新太郎』2010があり、本人の自伝『俺 勝新太郎』2008もあるのだが、この本はそれらに劣らないおもしろさ。
勝新のエピソードは、春日太一の本にも書かれているので、映画とテレビについてはそちらでわかっているのだが、表題にある「偶然完全」は勝新自身の言葉で、偶然だから完全なものが生まれるということ。勝新のためにあるような言葉。
勝新の図抜けた力とセンスはこの本で十分にわかるのだが、これほどの人だと実務のできる人が仕切ってやらないと何もできず、黒澤明でも勝新を映画に出すことに失敗していることを考えると、後半にあまりいい作品を残せなかったのも仕方ない。
カネの問題や、クスリ問題、座頭市撮影中の死亡事故についても、きちんと書かれていて、非常に腑に落ちた。勝新は、作品の中にだけいるのではなく、勝新の人生そのものが作品。だから、このようなきちんとした記録が残っていることが大事。
勝新は自分にとってはリアルタイムで作品を見ておらず、「パンツ大麻事件」や、「座頭市」死亡事故くらいでしか認識していなかったので、ただの変な人だと思っていた。認識が変わったのは、最近10年間で昔の出演作を見てから後のこと。
勝新が死んだのは、1997年6月25日。65歳だった。年齢から言えば、今生きていても不思議ではない。こういう人はサクッと死んだ方がよかったのかもしれないが。