マダムGの館 月光浴編

グレゴリ青山『マダムGの館 月光浴編』、小学館、2010


いちおうフィクションっぽい体裁をとっているが、実際はエッセイにより近く、内容は、著者のグレゴリ青山が「美」だと思うもの、本、映画、絵、猫などなどを作品ベースで紹介していくもの。

この「美」アイテムの選択がおもしろく、「黒蜥蜴」、「高畠華宵」、「老上海」、「月光浴」(中井英夫の本からの引用)、「ボリウッド映画」、「山名文夫」(資生堂の広告デザイナー)、「氷川丸」、「アイリーン・チャン」、「李香蘭」、「竹久夢二」、「竹中英太郎」(画家、竹中労の父)、「太宰治」などなど。

はっきり言って、この中に出てくるもののほとんどは、「名前を知っているだけで、実際に見たことはないものか、二次創作物を通じてしか知らないもの」。単純に著者の趣味が自分の趣味とは違うというだけなのだが、もともと全然見る気がなかったものが、これを読むと非常に魅力的に見えてくる。これは著者の腕。

李香蘭は、今まで「白夫人の妖恋」しか見たことがなく、ほかは参議院議員になってから後の事績以外はいい加減なことしか知らなかったが、当然、李香蘭時代の映画はたくさんあり、それにくわえていろんなエピソード、例えば実際に日本、国民党、台湾の間での諜報戦の登場人物だったことなど、知らなかったことが多数紹介されている。

マンガの描き方は、著者のいつもの色気もなにもなさげなタッチと同じようなものに見えるが、この本では描かれているものはちゃんと美しく見えている。これは著者の文章力だけでなく、どこを描くと美しくなるのかというポイントが押さえられているから。

これは著者の作品の中でも一番よくできている。著者のセンスとは違うかもしれないが、紹介されている作品はぼちぼちと読むわ。タイトルに「月光浴編」と書いてあるので、続編「黒猫編」があることがわかった。これも近々入手する。