整形した女は幸せになっているのか

北条かや『整形した女は幸せになっているのか』、星海社新書、2015


かなり露骨なタイトルだが、内容は充実していて非常におもしろい。著者は昨年『キャバ嬢の社会学』を出した人で、そちらもおもしろかったから期待して読んだが、期待を裏切らない出来。

読んでいて仰天したのは、著者の見積では美容整形をしている女性は全人口の30%くらいはいてもおかしくないと言っていること。根拠はクロス・マーケティング社のネット調査(対象者1万人)で、18歳から39歳までの女性の11%が美容整形を受けたと回答していること。これよりも上の年代の女性のほうが、シミ取りやシワ取りなどのプチ整形を経験している割合が高いので、「少なくとも30%」と言っている。これが妥当な推定かどうかは知らないが、「そんなにいるのか」と驚くレベルの高さ。

美容整形手術の内容、受けている人たちのプロフィールやインタビュー、美容整形に対する哲学、社会学業界の言説が紹介され、実際に美容整形をしている人たちにとって、施術を受ける心理的なしきいが非常に低いことがわかる。「プチ整形」という言葉が一般的になり、そこら中に美容整形専門医とその広告が出ているのだから当然といえば当然のこと。

手術後、抜糸して傷跡が落ち着くまでの「ダウンタイム」(手術が成功したかどうかはこの後にならないとわからない)をどう過ごしているのかが細かく書かれていて、ここもおもしろい。これは人それぞれ。何回も手術を繰り返している人の場合は、やはり不安は少ない。顔を手術でいじることへの抵抗感は手術を繰り返せば確実に下がっていく。

しかし、二重まぶたをつくるくらいはともかく、鼻にシリコンを入れる隆鼻術(プロテーゼ挿入)は、かなり大規模な手術で、ダウンタイムの腫れや顔の変色もすごい。それまでに何度か手術しているからできるのだろうが、これは怖い。終わってしまえばこっちのものだが。

この本のインタビューには「失敗例」がないので、手術のリスクはよくわからない。手術を受ける側はネット掲示板の評価で病院を選んでいる。素人が探せる手段はこれしかないのだろうが、確実性は低いし、そもそもネットの評価は素人評価だから、この方法が正しいのかどうかがわからない。ただ、失敗例があればネット掲示板で隠すようなことはできず、必要性もないので、失敗リスクは「かなり低い」のかもしれない。新聞で問題になるような失敗が起こる確率はわからない。

巻末に、美容整形を受けたことを公言している中村うさぎへの長文のインタビューが載っている。著者はよく調べてインタビューにのぞんでいるし、中村うさぎもかなり突っ込んで話している。結局美容整形は、「美」=他人に見た目でよく思われたい欲求のゲームなので、いつかは終わる。中村うさぎは実年齢マイナス15歳まで若返れると言っているが、それでも60歳の人が45歳に見えるところが限界で、20歳の人と同じというわけにはいかない。

中村うさぎは他の病気のためにしばらく手術を受けられない体になっていて、現在は美容整形を受けていないが、美醜のゲームから降りたいと思うこともあるが、もう降りられないとも言っている。手術をやめると、どんどん劣化するのみ。何もしなくても人間の美は劣化するのだが、それが自分の選択になってしまうのも辛い。見た目競争は厳しい。生きることが厳しいのだから、しかたがないが。