出動せず

瀧野隆浩『出動せず 自衛隊60年の苦悩と集団的自衛権』、ポプラ社、2014


これはけっこうおもしろかった。自衛隊の「中の人の事情」を、インタビューで追いかけたもの。当然、現在進行形のことは簡単には聞けない(インタビューの対象は、基本的には自衛官を退職した人)ので、ある程度歴史になった問題が対象になる。

それでも、地下鉄サリン事件での自衛隊の対応(治安出動関連)や三島由紀夫事件などには当事者でないとわからないことを聞いているし、自衛隊が1970年に治安出動を封印し、その後治安出動については準備も訓練もまったくしていないことは、この本で初めて知った。

読んでわかることは、「自衛隊は軍隊というよりは、役所」だということ。役所である以上、役人としての行動しかしない。それはいけないと思っている人もいるが、上層部は「法律の範囲を一歩も出てはいけない」と思う人ばかりで、そういう人でないと上層部には行けない。自衛隊はそういう組織。

政治家が動いて、法律ができ、準備ができていることはする。それ以外はできない。やらない。自衛隊60年の歴史の中で、そのような態度が少しずつ作られていったので、これは簡単なことでは変わらない。「必要があるから、何でもアリ」ということはないのだ。

著者は、防衛大学校を卒業して、任官せずに新聞記者になった人。毎日新聞にもこういう人がいるのね。自衛隊はどういう組織なのかということを理解するために重要な本。