西南戦争

小川原正道『西南戦争 -西郷隆盛と日本最後の内戦』中公新書、2007


西南戦争の入門書。司馬遼太郎の小説だけ読んですませるわけにはいかないので、こちらも読んでみた。

明治6年政変から、西郷から朝敵の烙印が消された明治22年までを描いた本だが、その後の西郷生存説や、それ以後に西郷を伝説視した人のことにも触れられている。

西南戦争そのものについては、時系列に沿って、主要な戦闘の経過を整理しているので、これでちゃんとわかる。田原坂付近の戦いの後で、戦線がどう移ったのかが、小説ではわかりづらかったが、解決した。

薩軍が負けた基本的な理由は小説にあるとおり。単独で反乱に勝つためには、兵力、物資、戦略、足りないものだらけ。全国規模の反乱を煽動して政府軍に勝つためには、それに相当する「名分」が必要だが、それが西郷暗殺計画の糾問というのでは弱すぎるということ。

わからないのは、なぜ西郷隆盛に、反乱の前も後にも、多くの人が西郷個人や西郷の行為の結果としての反乱に、自分の夢や希望を託していたのかということ。著者のいうところでは、「その人格、維新の実績、変革のイメージ、そして沈黙」のゆえに、理想を背負わされたのが西郷隆盛だということになっている。

しかし明治維新の立役者たちには短命で終わった者も含めて西郷以外にここまで人気を集めた人はいなかったのだから、どうも納得がいかない。西郷を持ち上げている人々は、西郷にひかれているところと、自分の幻想を西郷に勝手に託しているところがあるので、この問題は西郷隆盛を見ているだけではわからない。

著者は三島由紀夫の西郷についてのエッセイを引用しているが、これは昔の「任侠映画」の主人公に寄せられる人気と相通じるものがある。西郷の業績とよくわからない人格、西郷自身が物事を語ったり、書き残したりすることをほとんどしていないことが、おはなしの主人公になりやすい要素を持っていた。これは、アイドルにハマっている人を外側から見ても、何に熱くなっているのかよくわからないのと同じことだろう。

この本は史実としての西南戦争についての本なので、西郷とその人望については別の角度から見た本を読むべき。