昭和の結婚

小泉和子編『昭和の結婚』、河出書房新社、2014


これは非常におもしろかった本。「昭和」というのは、戦前から昭和40年代くらいまでをいうおおざっぱなくくりだが、結婚についてのさまざまな社会的慣習が今とは違うことだらけなので、どこを読んでもおもしろい。

まず表紙から32頁までは、写真が満載。結婚式の衣裳も、和服は今とそれほど変わらないが、それでも皇室ふうの「おすべらかし」や、髪型だけ洋風で衣裳は和風という変な格好があるし、洋服はウェディングドレスのデザインが時期によってぜんぜん違う。

結婚式は、神前、仏前、教会、家庭とそれぞれの様式の写真があるし、嫁入り道具、引出物、結婚写真、見合い写真がたくさん掲載されていて、見ているだけでもたのしめる。

章立ては、「旧民法下の結婚」、「結婚式と新婚旅行」、「農村と在日朝鮮人の結婚」、「戦争花嫁」、「嫁入道具」となっている。中流以上の都市住民の結婚と、農村住民の結婚の違いがよくわかる。在日朝鮮人(戦前の朝鮮人を含む)の結婚に一節があてられているので、同じ環境で民族的習慣だけが違うと、結婚がどのように違っているかもわかる。

見合いの細かい手順など、今では多くの人が知らないが、どこで相手を決めていたのか、親の決定権、仲人の役割、見合い写真の修整(Photoshopなどない時代に、鉛筆で写真屋が修整していた)など、おもしろエピソードだらけ。

とにかく妻の仕事、家事全般が非常な重労働で、特に問題は洗濯。洗濯機ができる前は、すべて手で洗濯していたのだから当然だが、こんなことをしていては朝から晩まで家事は終わらない。既製服は高価だから服も自分で作っているので、昔の妻は牢獄に入れられたようなものだっというのも納得。

恋愛結婚が「ふしだら」と見られていたことは知っていたが、それは中流以上のお金持ちのことだと思っていた。しかし、農村では都市以上に恋愛などできない相談で、すべて親と親戚が決めるのがあたりまえ。こういう束縛を受けないのは、社会的ネットワークから外れた、どうでもいいような人だけである。

ホテルでもパック結婚式がいつから始まったとか、新婚旅行が戦前には「放埒なことであり、あまりよくないこと」と思われていたとか、知らなかったことが山ほど書かれている。

あとがきで、編者(1933年生まれ)が、昔の結婚は幸せを目指すものではなく、むしろ物悲しいものだったと書いていて、非常に納得。「赤とんぼ」の歌詞が心悲しいのも当然なのだ。

ほんの40年前くらいの近過去のことですら、こうしてちゃんと本にならないとあっという間にわからなくなってしまう。昔の映画やテレビドラマの変に見えるストーリーも、これで納得できた。非常に貴重で、勉強になる本。