街場の大学論

内田樹『街場の大学論 ウチダ式教育再生』、角川文庫、2007


『街場の教育論』よりも、こちらを先に読んでいたのだが、これは短いエッセイを集めた軽い読み物。まあ、おもしろいことはおもしろいが、感銘を受けるというようなものではない。

それでも続けて著者の教育論を読む気になったのは、それだけのことはある本だから。

いちばんおもしろかったのは、最後の2章、文部科学省私学行政課長(のちに国立大学法人支援課長)杉野剛との対談の部分。この人は、著者と基本的に意見が一致しているし、問題の所在もわかっている。しかし、わかっていてもできることとできないことがある。文部科学省の課長は、一人で物事を決めているわけではないし、大学の設立を自由にさせて、市場競争で大学を淘汰していくべきだという「社会的合意」をひっくり返すほどの力はない。

この点についての著者の議論は、やはりちょっとおかしく、「どの大学も揃って学生定員を減らす」というのは、「実行できれば」解決策になるかもしれないが、実際には実行できない。政府が入口規制をしなければできない。これは経済学の議論がわかっていればすぐに理解できることだが、著者の人文系教養では限界がある。

それでも、文部科学省の中の人が、いたずらに大学をいじればよいと思っているわけではないとわかっただけでも収穫。著者の基本的な立場は正しいのだから、読んで損になるような本でもない。