街場の教育論

内田樹『街場の教育論』、ミシマ社、2008


内田樹は、どうも論旨(「反グローバリズム」)についていけないのと、言っていることそのものがおかしいと思っていたので、あまり読んでいなかったのだが、この本は良書。まっとうなことをまっとうに述べている。

もとは大学院での講義録を本に直したもの。この本が良書である理由は、教育の意味を正しくとらえていること。教育は、経済的にみれば投資だが、リターンのある投資としてしか教育を見なければ、教育の意味が貧しくなってしまうし、そもそも教育の意味を正面から捉えられないことになってしまうことがきちんと理解されている。

著者は大学教員なのだから、教育のプロだろうというべからず。大学教員は教育などできていないことが多いのだ。

著者は、教育とは、メンターが弟子に対して、人間の知識全体に対して、自分の存在がいかに小さいかということを気づかせることだと言っている。極端にいえば、メンターは何も知っている必要はなく、弟子に対して気づきを与えられる存在であればよい。弟子が気づくことができれば、後は弟子が自分で学ぶ。これをきちんと説明できているのは、著者自身にメンターとの出会いがあったからであり、著者もまたすぐれたメンターだからだろう。

なぜ孔子は「述べて作らず」といったのか、古典の意味はどこにあるのか、キャリア教育と言われるもののどこが間違っているのか、等々、学びについて、正しい理解をしている者にしか語れない言葉があって、しかもわかりやすい。

著者の「反グローバリズム」はあいかわらず健在で、それはおなかいっぱいなのだが、「教育に効率性や収益性を求めること、そのものが間違い」という著者の考えはやはり正しいと言わざるをえない。

これで内田樹の他の本も読んでみる気になった。何事も食わず嫌いはよくないわ。