武富士 サラ金の帝王

溝口敦『武富士 サラ金の帝王』、講談社、2004


溝口敦の消費者金融をネタにした本。タイトルでは武富士だけの本のように見えるが、実際には、消費者金融専業会社の大手企業「プロミス」、「アコム」、「アイフル」、「レイク」を取材しているほか、消費者金融に融資している銀行や保険会社、債務者、街金、山口組五菱会も取材しているので、消費者金融という業界の仕組みが全体としてわかる本になっている。

この本は単行本としては、1983年に現代書林から出たものを底本にしているが、2004年に文庫化される際に、武富士経営者の武井保雄が逮捕起訴された経緯、五菱会問題、アイフル経営者へのインタビューが追加されている。

この本で初めて知ったが、消費者金融は、ここに出てくる大手の会社がすべて創業者が一代で作り上げた新興企業で、大手企業がこの業界に進出して作ったものではない。ほとんどゼロの状態から、短期間に大企業に成長しているのは、それだけやり方が強引だから。かつて、少し大きな町の人通りの多いところでは、消費者金融の広告が入ったティッシュペーパーがそこらじゅうで配られていたが、とにかく新規の顧客をとり、顧客に必要であってもなくても多額のカネを貸し、高利の利息をとって、元金が減らないままで利息を払わせ続けるのが、常套的なやり方。

もう首が回らなくなっている多重債務者はともかく、普通の人がなぜ高利のカネを借りるのか、常人には理解できないが、高額商品の買い物でも、ギャンブルでも、後先考えずに高利のカネを借りる人は社会にある程度いるものなので、そういう人が消費者金融のターゲットになっている。

もちろん、取り立ては容赦なく、しかも、貸金業法の縛りが厳しくなると、金融業者は債権を暴力団や、街金に売ってしまう。債権の半額で売ってしまうとすると、手に入った半額は雑所得になり、取れなかった半額は損金算入できる。その分節税になっている。

この本では、武富士武井保雄アイフルの福田吉孝らのインタビューを取っているが、当然のことながら非常にアクの強い人物。大手の消費者金融であっても、「闇金ウシジマくん」であっても、あまり違いはない。顧客から容赦なく取り立てるのが当然と思えなければ、この業界でのし上がっていくことはできないのだ。

消費者金融の上前をはねているのが、銀行や保険などの「固い」金融業。表面利率は7%くらいで貸しているように見えるが、実際にはその2倍くらいの実質利率でカネを貸しており、その中には都市銀行だけではなく、長信銀や政府系金融機関も含まれている。しかも、消費者金融にカネを貸していることを公にしたくないので、直接融資はせず、迂回融資でそれとはわからないようにしている。

この本は、はっきりと消費者金融を「社会悪」と断じる立場をとっており、債務者側の問題にはあまり深く立ち入っていないが、常識的に、質屋程度でも、高利の金融業者にカネを借りる人は、まともに計算ができない人。貸す方も借りる方も、全部含めてコミュニティになっている。

武富士が経営破綻し、最高裁判決のおかげで消費者金融業界全体が大打撃を受けている現在からみると、とりわけ味わい深い。