クラシック音楽のチカラ

ギャレス・マローン(栗田知宏訳)『クラシック音楽のチカラ ギャレス先生の特別授業』、青土社、2013


これは…原著の意図はともかく、日本で翻訳として出版される本としては失敗。

著者は、イギリスで著名な合唱指導者で音楽啓蒙者。この本はクラシック音楽をほとんど聞かない人向けのクラシック音楽の入門書。

クラシック音楽をほとんど聞かない人を想定しているということは、楽譜を貼り付けて曲を紹介することはできないということ。つまり音楽の説明は文章でするしかない。これはむずかしい。

基本的に著者がしていることは、「曲名を紹介して、それが聞く価値があるとしてほめること」。これはある程度クラシックに慣れ親しんだ人には価値があるかもしれない。しかし、ほとんど知らない人が、文章を読んで曲を聞く気になるのかといえば、たぶんならないだろう。

もし、多少クラシックに興味がある人であれば、ネットで検索して聞くはず。ということは、作曲者名と楽曲名がyoutubeで検索できなければならない。もちろん、日本語ではなく、youtubeにのっている言葉、おそらく英語で。

この本には、作曲者名は、アルファベットとの対照が索引にのっているからそれでわかるが、曲名が出ていない。ある程度わかっている人なら、wikipediaで作曲者名を検索して、そこから曲名を探すだろうが、この本からではできない。

実は、この本はネットで音楽を聞く人のために、サウンドリンクがついている。しかし、基本的にはspotifyで探してくれと書いてある。Spotifyは、日本ではサービスを行っていないし、レコード会社の権利問題がややこしく、当分日本でサービスを開始する予定もない。これではあまり意味がない。

やはり本で音楽を紹介するのはむずかしい。また、そういう企画をやるとすれば、その国の環境にあったものでなければならず、この本を翻訳する膨大な労力を考えると、むしろ日本語で日本の音楽環境に合わせて、誰かが書くべきもの。なにしろ、この本は500ページくらいあるのだ。訳者の労苦はたいへんなものだと思うが…。もったいない。