ヤンキー経済

原田曜平『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』、幻冬舎新書、2014


これはヤンキー本だが、マーケティングの人が書いているので、主にヤンキー(マイルドヤンキー)の消費行動について書いた本。今年出た本だが、図書館で予約してから順番が回ってくるまで相当かかった。けっこう読まれているのだ。

最初の方に出ているエピソードで笑えるのは、夫が加古川、妻が高砂加古川高砂は隣町)出身という夫婦がいて、夫はどうしても加古川に住みたかったのに、結局妻の意向が通って高砂に住むことになったが、それが「人生で一番のアドベンチャーだった」と夫が言っているというおはなし。

外からみれば笑うしかないが、マイルドヤンキーは、そのくらい地元志向が強く、自分の家の半径5キロより先には出たくないと思っている。この夫は、東京や大阪は当然として、「三宮に出るのも、できればしたくない」と言っている。家と、近くのショッピングモールで全部完結してしまっているのだ。なんですかねぇ。

同じようなエピソードが、東京都の日の出町や石神井でも載っている。日の出町は東京都といっても、他県みたいなものだが、石神井で「地元から出たくない」とはどういうこと?でも、それがマイルドヤンキーなのだ。「地元」と人間関係(中学以来の)でつながっているので、中学校の校区とその周りのエリアだけが自分が安心できるエリアで、その外には出たくない。東京であっても、電車でターミナル駅に出たいとは思っていない。移動は車。

ショッピングモールは、自分の欲しいものが何でも揃っている「夢の国」。ふつうに何でも売っているし、食事もできるので(特に家族の食事)、それでいいのだ。そんなところはつまらないし、ショッピングモールの飲食店はおいしくない、と思うのは、他にいくらでもお店があるところに住んでいる人の考え方で、簡単に車で行けて、時間つぶしができる場所のほうがいいという人はいくらでもいるのである。

大学に進学する者は相対的に少ないし、大学に行っても中学時代の人間関係が続いているので、その外には出ない。狭い範囲の仲間関係、家族関係、みんなで一緒に移動するための車(お金がないと軽、あればミニバン)といったものが重要。車で出られる範囲が行動圏内なので、ターミナル駅の繁華街に出たがらないのは納得。


ヤンキーの生活というのは、同じ日本、というか、自分のすぐ隣にいる人々でも、自分とはまったく接点がなく、別世界の人間を見ているよう。ヤンキー論のおもしろいところはたぶんそこ。社会集団が違えば、まったく違った世界があるということが自分のすぐ前にあるという驚きが読んでいて楽しいのだ。たぶん、実物のマイルドヤンキーと話しても、5分以上は時間がもたないと思うが。