屋根屋

村田喜代子『屋根屋』、講談社、2014


予約していた小説本が来たという図書館の連絡で拾ってきたのがこの本。しかし、なぜこの本を予約したのか、今となってはまったく思い出せない。今年刊行された本なので、新聞の書評か何かで見たということだと思うが、わからない。

読んでみると、おもしろい。夢の話だ。主人公は、40代の家庭の主婦で、夫と息子がいる。屋根の修理を頼んだことがきっかけで、屋根屋と知り合いになる。主婦は、屋根屋の誘いで、夢の中でいっしょにどこかに行く術を身につける。どこかに行くといっても、屋根である。ノートルダム寺院の屋根や、醍醐寺の屋根に行くのだ。

男女関係はない。厳密にいうと、微妙に口説かれているのだが、主婦はそこはさらっと流している。夢の中でいっしょに暮らそうと言われるのだ。踏ん切りがつかないままに、主婦は京都旅行に行く。そこで偶然(?)屋根屋に会ってしまう。レストランで食事をした後で、夫の姉夫婦と出くわしてしまう。

しかもその後、主婦は屋根屋に抱きすくめられそうになる。避けようとするが、心は半分抱きすくめられたい方に行っている。そこで目が覚める。京都に行ったのはリアルのはずだったのが、そうではなかった。主婦にはもはやどこからが夢で、どこからが現実なのか、区別がつかなくなっている。

屋根屋は、現実の世界から煙のように消えてしまい、屋根屋の家は荒れ果てていく。主婦は、屋根屋の姿を求めるが、もう見つからない。主婦に残ったのは…というような話。


読んでわかったが、この夢の中での交情(肉体関係はなし)というところにひかれたのだ。しかし夢は危ない。うかうかしていると、あっちの世界に引きずり出されて、そのままになってしまう。危なさの際のところがとてもよく書けている。良作。