バリバリのハト派

荷宮和子『バリバリのハト派 女子供カルチャー反戦論』、晶文社、2004


これは本当にアレな本。図書館でこの本が「外交 国際政治」の棚にあったので、どんなものかと見てみたが、図書館員もいい加減な仕事してる。

著者は1963年生まれ、「女子供文化評論家」とあり、他の本は主に宝塚と少女マンガなど。しかし、この本を読むと、本業のはずの女子供文化のほうは大丈夫なのかという気になる。大丈夫な本だとはとうてい思えない。

「はじめに」の項目の副題は「女子供文化は「差別」と「戦争」を許さない」とある。そんなことはないと思うが…。宝塚の演目の中で、戦争ネタを取り上げているものはたくさんあるし、少女マンガも同じだが、著者は見たことないのか?

著者は大塚英志斎藤貴男が好きなのだが、その理由は、彼らが「この世の中に弱者が存在することに対して、生理的な嫌悪感を抱いている」からだという。いや、「弱者が存在すること」に嫌悪感など抱いていないと思うが…。大塚英志斎藤貴男もちょっとアレだが、こんなことを書かれたら、彼らも困るだろう。

第1部の最初の文章の題は、『ベルサイユのばら』は「自由と平等と博愛」をあきらめない、というもの。ベルばらは「フェミ入っている」とも書いていて、それはそうかもしれないが、少なくとも戦争反対みたいなことは全く出てこない。オスカルが軍人で革命側に投じて王党派の軍と戦うのはいいのか?

著者は、『ガンダム』といい、『ジパング』といい、男の子向けエンターテイメントに出てくる軍人って、本当にバカばっかりで、見ていてしらけるなあ、と書いているが、その例にあげているのは、「ジオン軍ジーン軍曹の感情的で軽率な突発行動」。著者は絶対にその後の場面を見てないでしょ。

「女子供文化」が戦争を推進していた例など、村岡花子を待つまでもなく、たくさんあるのだが、著者は全然知らないのだろうか。戦争ものがキライなのはわかるが、ちゃんと見ないで一刀両断するのもすごいと思う。

やたら文中で2ちゃんねるの記事が引用されているのだが、著者は自分の嗜好と全然違うコンテンツを「悪い例を指摘する」ために読んでいるのなら、やめたほうがいいと思う。精神に悪いわ。

映画版「白い巨塔」を見て、「東野英治郎小沢栄太郎がしばしばごっちゃになってしまう」(が、この映画ではそういうことはなかった)と書いているが、この映画でなくても、普通に映画を見ていたら絶対ごっちゃにならないでしょ。この映画から「勝ち組」「負け組」はヒューマニズムに反する発想だ、という主張を引き出しているが、あの映画からそんな発想出てくるかな。

まあすごい本。晶文社って、こういう内容でも本にしちゃうのだ。知らなかったわ。ある種の奇書である。図書館はいろんな本を買っているのだ。