ガタロ

ガタロ、中間秀俊『ガタロ 捨てられしものを描き続けて』、NHK出版、2014


これは半ば画集で、半ば取材記。絵は、「ガタロ」という、基町アパートで清掃員をしているアマチュアの絵描きが描き、文章はこの人をネタにしてドキュメンタリーを作った、NHKのディレクターが書いている。番組は2本あって、自分は後で作られた「ETV特集」の方だけ見た。

基町アパートはかなり大きな団地なのだが、いくつかの棟の1階部分がショッピングセンターになっている。ここはほぼシャッター商店街状態になっていて、あまり店は開いていないのだが、ここの廊下とトイレの掃除を請け負っているのが、この絵描き、ガタロ。ほとんどの絵は、仕事道具の掃除道具を描いたもの。

このモップ、雑巾、軍手、靴、掃除道具を入れるカートなどの絵が迫力があって、とてもいい。下手なのだが、これだけ迫力があると、上手下手はもはや関係なし。スケッチブックに木炭か何かで描かれている。ほとんどが単色。黒一色でやっているのがいい効果になっている。

他のテーマは、基町アパートに出没していたホームレスのS氏という人と、原爆ドーム原爆ドームは、放送された番組を見ると、ムリヤリ広島と福島の原発事故をくっつけたような編集がされていて、「またNHK反核宣伝か…」とあきれていたのだが、これはディレクターが勝手に編集したのではなく、もともとガタロが「平和美術展」に出展するような人で、原爆大キライだからということを、この本で知った。

ホームレスのS氏というのが、絵で見るとこれもいい味を出している。もうどこかに消えてしまって会えないらしいのだが、人の存在感が出ている絵。

テレビ番組にはけっこう反響があったそうで、東京、横浜で個展を開き、トークショーに4回出た。この本も、番組取材の結果をまとめたもの。しかし、そういうにぎやかな時期がすぎると、ガタロはまた掃除と絵描きの日々に戻っているのである。