泡沫候補

藤岡利充『泡沫候補 彼らはなぜ立候補するのか』、ポプラ新書、2014


この本の著者は、ドキュメンタリー映画「立候補」を撮影した監督。この映画のメインネタがベテラン泡沫候補マック赤坂。その素材を使ってできたのがこの本。しかし自分は映画は見ていないので、この本で分かる範囲のことしかわからない。この本の内容でけっこうおなかいっぱいで、あまり映画を見る気にはならないが…。

この本(映画も)が主に追いかけているのは、2011年の大阪府知事選。橋下徹大阪市長選に立候補して、知事選と市長選のダブル選挙になった時のもの。マック赤坂は、府知事選に出ていたので、そこでのマック赤坂の行動を追いかけている。

とにかく、マック赤坂は、何がしたいのか、まったくわからない。自分の商売に役立つという動機ではないようだ。なにしろ、2007年の港区議会選から、2014年の大阪市長選まで、7年で11回の選挙に出ているのだ。これだけの選挙運動は、金銭的にも時間的にも大変。供託金は基本、没収だし。

しかも、この本を読んでいてわかったのは、マック赤坂はただの目立ちたがり屋で、基本、非常にイヤな感じということ。橋下、松井の大阪維新候補の演説会に殴りこんでいくエピソードは、他人の演説を邪魔して自分が目立とうということでしかない。しかも、橋下徹マック赤坂に時間を譲ってやり、逆に好感度を上げている始末。完全に貫禄負けだ。もちろん、橋下徹は、善意ではなく計算で、演説の機会を譲ってやっているのだが、マック赤坂の人間的な狭量さが目立つばかり。現実に、大阪府知事選には、当選した松井一郎のほか、自民党らが推す倉田薫、共産党候補、それから泡沫候補4人の7人が立候補しているのだが、マック赤坂は最下位。泡沫候補の中でさえ、最も人気がないのだ。有権者は意外にきちんと見ているのかもしれない。

大阪府知事選なのに、京都で演説しているのにも驚いた。知事選の演説は場所が限定されておらず、全国どこでやっても制限はない。選挙運動なので、警察も簡単にはやめさせられない。こんな人のために、多額の公費が支出されているのだから、高額の供託金が設定されているのも当然だと思わされる。

この本では、マック赤坂のほか、外山恒一も取り上げられている。こちらの目的は非常に明確。インパクトの強い政見放送を流して、自分の仲間を集めること。選挙に出ることが目的であるわけではなく、そんなにお金もないので、どんどん選挙に出続けるわけではない。

昔から、泡沫候補はたくさんいた。高田がん、マスダシン一、最近YouTubeで話題の「反ソ決死隊 深作清次郎」というのもあったわ。みんな頭がおかしいが、マック赤坂ほど人をなめている泡沫候補はめずらしい。映画としてはこの人を取り上げたのはたぶん正解。

本の最後にドワンゴの会長、川上量生との対談がついていて、そこで川上量生が言っているのは、「世の中に、トータルで見ていい話などたぶん存在しておらず、それがわかるのがこの映画のいいところ」と言っている。そのとおりだろう。