戦前昭和の社会 1926-1945

井上寿一『戦前昭和の社会 1926-1945』、講談社現代新書、2011


これは非常に勉強になり、かつおもしろかった本。太平洋戦争で「断絶」したと思われている戦前期の日本社会は、考えてみればあたりまえだが、戦後日本社会とちゃんとつながっているし、現代日本社会ともいろいろと類似点がある。

著者の切り口は、アメリカ化、格差社会、大衆民主主義の3つ。まずアメリカ化。太平洋戦争でいきなり鬼畜米英と言い出したのが特異なので、それ以前は文化も、政治も(二大政党制は、イギリスではなく、アメリカのマネ)アメリカのマネだらけ。豊かな消費社会のアメリカが日本の模範だった。

格差社会は、戦前期の日本社会が豊かな社会になっていったことの裏面。この時期のジニ係数はどんどん拡大していた。企業内格差、産業間格差、都市農村の地域格差、男女格差、あらゆる格差が非常に大きかった。今と違っていたことは、当時の人々にとって、格差はあたりまえの現象だったということ。しかし、この格差をなんとかして縮めなければならないという考え方も強かった。満州事変以来の戦争を支持していた人たちには、戦時体制をつくることによって社会的格差を縮めなければならないという考え方が強かった。

大衆民主主義は、昭和初期の政党政治を通じて定着していったが、政党政治だけではなく、2・26事件以後の政治にも大衆民主主義の要素は確実にあった。近衛文麿の人気、特にラジオを通じて近衛文麿が人気を得ていたことはその証左。


デパート、アパート、映画、家庭電化製品の普及、ファッション、文学、新興宗教、農村、ラジオなど、幅広い切り口で、戦前期日本社会がどのように豊かで、どのように貧しかったかを具体的に描いている。モンペの流行を推進していたのは誰で、いつからだったか、ラジオはいつからどのくらい普及し、どんなコンテンツが聴かれていたか、知らなかったことが山ほど書かれている。230ページくらいの短い本だが、非常に内容豊富。