仁義なき日本沈没

春日太一『仁義なき日本沈没 東宝vs.東映の戦後サバイバル』、新潮新書、2012


これは非常に勉強になった本。戦後日本映画史を映画会社の経営と映画製作の観点から眺めた本。東宝東映に焦点をあててはいるが、日本映画全体のシステムを見渡した本になっている。

日本映画の黄金期は1950年代から60年代にかけてだったが、それを個々の映画から描くのではなく、会社の経営から見た本は類がないだろう。著者は、日本映画の分岐点は、1973年だとしていて、その理由は、この年に公開された「仁義なき戦い」と「日本沈没」がその転機になったから。

映画会社の経営は、映画製作の方針、撮影所の運営、スタッフの士気、何よりも資金投入に関係している。できあがった「製品」である映画だけ見ていても、なぜそのような映画が作られたのか、特定の時期に特定の傾向の映画が集中してつくられたのはなぜかはわからない。それがわかるのは映画から一歩引いて、映画会社とそのシステムを俯瞰してみないといけない。

東宝が戦争映画を作り続けていた理由もよくわかった。今のテレビの終戦記念日特集と同じで、夏に戦争映画を上映することはかつての「定番」で、実際に客も入っていたから。映画の内容が娯楽よりか、反戦よりかは、あまり関係なかったようだ。

「人間革命」や「山口組三代目」のヒットは、映画が単体ではなく、タイアップで売れるようになった現象のはじめを示す。そこから70年代後半の角川映画につながっていく。東宝は制作から撤退し、配給、興行会社として、東映はテレビ制作会社として残っていきましたという結末。

この短いボリュームでよく要点をまとめている。ありがたい本。