中国抗日映画・ドラマの世界

劉文兵『中国抗日映画・ドラマの世界』、祥伝社新書、2013


著者は、中国人で映画研究で東大で学位を取った人。なので、内容はだいたい信用していいだろう。中国の抗日映画・ドラマを、蒋介石時代から、現代まで簡単に概観した本。

中国映画史がまったくわかっていない自分には、抗日ネタを通じての、中国映画史としてもおもしろく読めた。2012年に中国でゴールデンタイムに放送された(地方テレビではなく、全国カバーの衛星放送のコンテンツ)テレビドラマ200作のうち、70作が「抗日ドラマ」だと書かれている。現在も、抗日映画・ドラマは主要コンテンツなのだ。中国制作のドラマの一部は日本のBS、CS局でも流れているが、歴史もの(ほとんど古代だけ)で、抗日ものは絶対に流れないし、かなりの有名作品か日本人が制作に関わったものだけしか、ソフト化もされないので、この本はそれなりに価値がある。

本を読んでみてわかるのは、「抗日もの」もジャンルなので、中国映画の変遷に従って、時代ごとに違ったものになっているということ。ただ、この本では時代ごとの特徴はわかるように書いてあるのだが、なぜ抗日ものが時代が変わってもウケ続けるのか、という問題についてはツッコミが薄い。ただ、近年の抗日ものは、「愛国主義教育の結果というよりは、市場の需要に応えていると考えるべきだ」と指摘されている。

現在の抗日ものは、ほぼ日本の時代劇と同じで、日本軍を悪役として描くのは「お約束」だからということになる。比較的安く作れることも重要な要素。また、近年はシリアスに描かれた抗日ものは基本的に「ウケない」という。

著者の考えでは、抗日映画・ドラマが中国人の意識に影響しているというよりは、その次代の中国人の意識(日本に対するものとは限らない)が、抗日映画・ドラマに反映しているのだということになっている。そうだろうとは思うが、抗日ものが中国人の意識にどのような影響を持っているかについては、もう少し考察してもらいたいところ。