立川生志 らくごLIVE ひとりブタじゃけぇPART VI

「広島で生の落語を聴く会」、「立川生志 らくごLIVE ひとりブタじゃけぇPART VI」、2014.1.12


これは広島ではめずらしい落語会。演者は立川生志。この人は今まで全然知らなかったのだが、非常によかった。

この落語会は、事業としてプロモーターがやっているのではなく、ふつうの人が主催して手弁当でやっているもの。会場は、中区中島町にある、広島工業大学広島校舎というところ。この場所が落語会のためにあつらえたのかと思うくらい、落語に適した場所。キャパシティーは150人ちょっとか。ちゃんと緞帳と幕が3つくらいある。客席と高座の距離が近く、後ろの方の席でも十分臨場感がある。こんな場所を見つけてきて、しかも演者は主催者が自分でセレクトしているのだ。広島のような地方都市でも落語会はないことはないが、テレビで名前が売れている人以外は集客がむずかしい。それに加えて、テレビに出ていない落語家を探すためには、東京にある程度まめに通っていなければならず、これは簡単なことではない。

枕は、時事ネタの、猪瀬知事辞任や、横浜地検川崎支部逃走事件をうまくいじって、うまく笑いをとっている。いい感じに客があたたまったところで、まず2題。

「道具屋」は、テンポよく進む。軽いはなしだから、最初にはちょうどいいのか。「茶の湯」は、ご隠居と定吉のやりとりをていねいに描写している。短くするためか、師匠、豆腐屋、頭のあわてぶりはあっさり。まあ無難な感じ。

これだけだったら、そんなに強い印象は受けなかったが、休憩の後の「ねずみ穴」が名演。この落語家の本領は、この濃い人情話の中での、弟の苦しみと(夢の中の)悲劇、豹変する兄の態度を完璧に演じきった。特に、弟が娘を吉原に売って作った五十両をすられた描写は、聞いていて涙が出た。

会の表題のとおり、演者はちょっとふっくらした体型で、ご自分で「ブタ」とおっしゃってる。経歴を見ると、入門から真打ちになるまでに二十年もかかっている。いくら立川流が厳しいからといっても、こんなに長くかかるのか。ご本人も、言葉にできない苦労があったものと思う。しかし、その苦労だけのことは芸のうちに積み上げている。

この地方都市でも、この人の芸を聴くことができて、本当にラッキー。この会はPART VIとなっているので、これまでに三回、広島に来ていたことになる。もったいないことをした。これからはちゃんとアンテナを張っておかないと。