撃滅の歌

「撃滅の歌」、高峰三枝子轟夕起子月丘夢路ほか出演、佐々木康監督、松竹大船、1945


この映画、宝塚100周年の宝塚女優映画ということで見たのだが、戦時中の戦意高揚映画。同時に音楽映画になっている。いろいろおもしろな要素が多すぎて、カオティックなおもしろ映画だ。音楽映画のくせに、タイトルロールは無音。ここに音楽を入れる余裕もなかったのか?

高峰三枝子轟夕起子月丘夢路は、同じ音楽学校を卒業する。この音楽学校の先生が、藤原義江だ。ご本人が本名で出演。道はそれぞれ別れて、月丘夢路は小学校の音楽教師、高峰三枝子は結婚して、ダンナのジャズ・ミュージシャンと上海へ。轟夕起子は、作曲家の増田順治と結婚し、藤原歌劇団に入って音楽を続ける。

さりげなく笠智衆が出てきて、セリフだけで戦病死させられたり、いろいろあるのだが、大詔渙発大東亜戦争が始まり、愛国行進曲とか、「紀元二千六百年」とか、戦意高揚音楽がかかりまくる。ジャズをボロクソにけなしているわりに、自分の作曲がうまくいかなくて悩んでいた増田順治は、炭鉱で働くうちに、「自分の使命は勤労音楽!(戦意高揚音楽のこと)」と開眼し、ついに傑作「米英撃滅の歌」を作曲。この映画のために作られた新曲だ。

これを藤原義江大先生ほか、三人娘やら、合唱やらがフルコーラス歌いまくって終わり。1945年の映画だから、最後に富士山をバックに「撃ちてしやまむ 敵米英 撃滅の日まで」と字幕がばばーんと出てくるところはご愛嬌。

構成は、ベートーヴェン交響曲第9番みたいなもので、クラシック、ジャズ、学校唱歌がそれぞれ否定され、それらを止揚したところに新しい日本の音楽たる「勤労音楽」があるのだというオチ。

藤原歌劇団が「カルメン」を上演した後に(この「カルメン」の出来はいまいち)、いきなり「日独伊三国同盟締結!」の知らせがきて、劇場の全員が「愛国行進曲」を歌い出したり、炭鉱のシャベルに「アッツ島を忘れるな!」と書いてあったり、炭鉱夫の服装がキレイすぎとか、いろいろ笑わせ所が散りばめられて非常に楽しめる。

「米英撃滅の歌」は、かなりキテる歌詞に山田耕筰先生が、かっこいい曲をつけていて、聞きこむと癖になりそう。YouTubeに上がっている音源は、伊藤久男 波平曉男の歌唱だが、この映画の藤原義江の歌唱もすばらしい。ちなみに藤原義江の歌い方は、やっぱりオペラっぽい。この曲は合唱向きですね。ぬるい展開と対照的に、最後の歌で盛り上がるところもとてもいい。