ウルトラマンが泣いている

円谷英明『ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗』講談社現代新書、2013


著者は、円谷一の次男で、円谷プロの六代目社長。現在はコンテンツビジネスとはまったく関係のない仕事をしている人。この本は、円谷一が亡くなった後で、円谷プロの経営が傾いていき、結局他社に安値で買収されて円谷一族が完全に会社から切り離されてしまうプロセスをていねいに書いたもの。

いろいろな読みどころがあるが、やはり中心になるのは円谷プロの事業の中心になっていた、「実写キャラクターの子供向け番組」を中心にしたビジネスがいかに難しいかという話。著者は、自分には制作面での才能はないとはっきり書いていて、この本でも作品についての話は薄い。その分、ビジネスとしての特撮番組制作に焦点が当たっていて、これは作品を見ているだけの人には書けない内容なので、非常におもしろく読めた。

円谷プロが結局ライダーや戦隊ものを制作している東映と比べて完全に戦線から落伍してしまった理由は、「新作を継続的に制作する」ことを続けられなかったということ。ウルトラマンレオから80の時期までが新作の提供が継続的にできていた最後の段階で、その後はキャラクター商品の版権ビジネスに移ってしまった。しかし新作を出せないと、キャラクター商品は売れないのでビジネスを継続していくこともできなくなるという理屈。

これに会社の放漫経営と私物化(手厳しく非難されているのは、円谷一の弟で著者には叔父にあたる円谷皐)と経理がなってないムチャクチャな事情が加わって、結局破綻したという構図。著者は、円谷皐のワンマン経営に問題があり、同族経営が問題ではないと主張しているが、ガバナンスを維持できない経営者がいつまでも居座っていたのは同族経営が理由なのだから、結局問題は同族経営の悪いところが全部出てしまったということ。

番組制作にかかる費用が制作費としてテレビ局から提供されるお金だけでは賄えず、コンテンツの二次利用で稼がなければならないというビジネスモデルを前提にすると、このビジネスそのものが非常に難しく、経理を含めた経営管理がしっかりしていて、資金的に余裕のある会社でなければ事業継続は難しい。円谷プロにはそれができなかったという結論。

著者は、コンテンツビジネスを中国で展開する仕事もやっていて、そのことも克明に書かれているのだが、こちらは著作権管理がいい加減で、かつ司法制度があてにならない中国でコンテンツビジネスをやっていくことがいかに難しいかという事例になっている。

一種の暴露本だが、問題の渦中にいた当事者がすべて実名で書いているのだから、凡百の暴露本とはインパクトが違う。子供向けコンテンツに関心のある人にとっては必読書。