オーケストラ再入門

小沼純一『オーケストラ再入門』平凡社新書、2012


複数の楽器が集まって合奏しているものはすべてオーケストラ、という視点で、オーケストラについて考えてみましょうという本。現在のクラシック音楽のオーケストラ以外にも、ジャズのビッグバンド、雅楽ガムランなど、いろいろな合奏体が取り上げられている。

「映画のなかのオーケストラ」の章がいちばんおもしろく、いままでオーケストラを扱った映画がいろいろと取り上げられて解説される。この章は便利。『オーケストラの少女』『ファンタジア』『カーネギーホール』の初期三名作から、『ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて』『ラマラ・コンサート』のような最近の作品まで、幅広く紹介されているので、見る参考にはなる。

しかし、最後の章は、やっぱりクラシックの普通のオーケストラの話に戻ってくる。そしてこの章はあまりいただけない内容。「オーケストラの楽器は自然でできている」と言っていて、楽器は「動物、植物、鉱物」からできているというのだが、動物と植物はともかく、金管楽器木管楽器が「自然物」だというのは明らかにムリでしょう。工業製品なんだから。コンサートのマナーで体を動かさずにじっとしていることに疑問を投げかけているが、ポップスのコンサートとは違うのだから、しかたがない。実際にコンサートに行ってみて、隣の人が曲にあわせて体を動かしていれば、「邪魔」だということは著者だって知っているはず。

ということで、小ネタとしてはおもしろいものが入っているが、全体としては中途半端な本。さまざまな演奏体を包括的に取り上げようとして、かえって焦点が決まらなくなっている。