不平等について

ブランコ・ミラノヴィッチ(村上彩訳)『不平等について 経済学と統計が語る26の話』みすず書房、2012


これは良書。現代および過去に及ぶ不平等を、国内における個人間の不平等と、国際社会における諸国民の不平等の両方に焦点を当てて論じている。どの議論にもきちんとしたデータの裏付けがあり、実証的な成果に基いて、かつ押し付けがましくないレベルで規範的な含意についても論じられている。

著者の結論をかんたんに言うと、「一国の国内における不平等よりも、複数の国々の間での不平等の方がはるかに重大であり、世界全体でみた不平等は、そのほとんどが、どの国に生まれたかによって決まってしまう」ということ。直感的には容易にわかることだが、データをもとにしてきちんと説明されるので、非常に説得的。日本社会内部の格差など、世界全体でみればないのと同じである(だから政治的に重要ではないとはいえないが)。それよりも、世界レベルでの不平等は圧倒的。

世界人口を単純に総所得で5分すると、最低位の20%の所得ブロックにいる人口は世界全体の77%に達する。第4分位の20%の人口は12%、第3分位は5.6%、第2分位が3.6%、第1分位の最富裕層はわずか1.75%である。世界で最も富裕な10%に入る人口の70%が北米とヨーロッパ国民、20%がアジア国民、ラテンアメリカは5%未満。それにわずかな旧ソ連、東欧、アフリカの諸国民が入る。

つまり豊かな生活を享受するためには、北米、ヨーロッパ、少数のアジアの国(日本、シンガポール、韓国、台湾)に生まれている必要があり、それ以外の地域では、ほとんど「外れクジ」しか残っていないということ。さらに、この不平等は、世界経済の成長によってより拡大しており、今後も拡大する。貧しい状態ほど平等度は高く、豊かになると平等度は下がるのである。

歴史的な所得分布の計測方法、マルクスの議論の失敗のポイント、世界経済に「中間層」は存在するか、ロールズのグローバルな不平等についての無関心など、興味深い内容のコラムがたくさん入っている。どこを読んでも面白い知見にあふれた本。

惜しいのは解題または著者紹介がないこと。著者は、メリーランド大学教授で世界銀行エコノミストだが、経済学的なこの本と著者の位置づけについて、ていねいな説明がほしかった。