徹底検証 日本の軍歌

小村公次『徹底検証 日本の軍歌 戦争の時代と音楽』学習の友社、2011


明治初期から敗戦までの日本軍歌の歴史についての本。著者は1948年生まれ、音楽評論家。

西洋における軍楽の歴史からはじめて、「宮さん宮さん」から後の日本軍歌の系譜をひととおり、追っている。学校教育の中での軍歌の位置づけ、レコードやラジオという伝達手段の影響、戦争美談、公募歌に見られるような軍歌の「流行歌」化、曲調や替え歌など、ひととおりいろいろな視点で軍歌を扱っていて、興味深く読めた。

特に「軍歌と戦後」に一章があてられていて、太平洋戦争が終わってから軍歌がどこでどのように流れていたかが説明されていて、そこが勉強になった。アイ・ジョージ労音のコンサートで軍歌を歌ってクレームがついたこと、一時期は、軍歌が歌謡曲としてはやっていたこと(「ああ特別攻撃隊」は川内康範作詞、吉田正作曲で1964年に発売)、東京12チャンネルで軍歌番組が放送されていたこと、はこの本で初めて知った。1960年代からしばらくはそれなりに軍歌への需要はあったのだ。軍歌サークルや、ネット上の軍歌サイト(「西洋軍歌蒐集館」もオタク系サイト扱いで注に引用されている)の紹介もある。

音楽評論家の本なので、引用注がちゃんとしていることはこの本のよいところ。出典をあたるのに便利。反面、妙に説教(もちろん、軍歌がはやるようなことはよくないという趣旨)じみているところは、版元が「学習の友社」だから仕方ないか。著者自身は、回顧体験談でもなく、純粋な学術研究の対象としてでもない、「団塊世代からみた軍歌論というべきもの」と書いている。