中国の地下経済

富坂聰『中国の地下経済』文春新書、2010


この本には非常に驚かされた。著者によると、ある推計では、中国の地下経済の規模は、統計に表れている中国のGDPの約半分。つまり、中国の実際のDGPは見かけの数字の1.5倍だという。さらに驚いたのは、この地下経済の規模だけでなく、中国の地下経済が、「表の経済」と切り離されたところにあるのではなく、完全に表の経済と一体化していること。

以前、門倉貴史『日本の地下経済講談社、2002を読んだ際には、日本の地下経済の規模はGDPの約3.3%、内容は犯罪組織が行う違法行為と、実質違法に近いが権力によって見逃されている一部の経済行為だということになっていた。しかし中国のそれは、日本のものとは比べ物にならない。単に、法の目を逃れて一部の人がやっているのではなく、公権力とそれにくっついている国有企業の活動にはほとんどすべて地下経済が伴っており、両者は切り離せない。

巨額の財産を持っていることが明らかな企業家だけでなく、権力を持っている者のところに富が集まる。この本に載っている話ではないが、NYTが暴露した「温家宝の一族が所有する資産は28億ドル」というニュースは、この本を読めばなるほどと思わされる。この本の一章は、党大会直前にスキャンダルで失脚した薄熙来の「打黒」キャンペーンにあてられているのだが、中国で不正一掃とか、打黒とかをキャンペーンとして行うことが、政治闘争と切り離せないものであること、それを実際に行おうとすれば、「霜降り肉から脂肪を引き剥がす」ような結果になることを説明していて、非常に暗示的。実際、昨年薄熙来が失脚した際、彼がアメリカに保有していた資産(つまり本国に持っている分は含まない)が、10億ドルだったとされている。

この巨大な地下経済貧困層を養うプールにもなっているので、中央権力といえどもほとんど手が出せない。中国の地方権力は地下経済と共存することで経済成長を遂げているからだ。

やはり中国は、水面下にある部分が大きすぎて、表に出ている部分だけ見てもそれだけではわからない。こういう社会でガバナンスを維持していくのは並大抵のことではないだろう。