ロマンポルノの時代

寺脇研『ロマンポルノの時代』光文社新書、2012


この本にはそうとう驚いた。驚いたというのは、ネタのロマンポルノそのものに対してではなく、著者の寺脇研に対してである。

著者が官僚の仕事をしながら映画評論を続けていたというのは知っていたが、この本を読むと、日活ロマンポルノが誕生した1971年に大学1年生で、ほとんどのロマンポルノ作品を見ており、その後も継続してこのシリーズをフォローしていて、ロマンポルノの制作が終わる1988年まで続けて作品を見続けていたというのだ。

この本を読むとロマンポルノは16年半の期間に約1000本作られたということだが、そのほとんどを見ているというのは尋常なことではない。しかも初期に量産されていたころは1年間に60本以上製作されていたのだ。ロマンポルノは今となっては、名作がソフト化されているので、一部の人には落日の日本映画の中でオリジナリティのある作品をつくった揺籃のように言われているが、これだけ作品があれば見るに耐えないものも掃いて捨てるほどあるはず。よほど思い入れがないと見続けることはできないだろう。

この本をひととおり読んでみて、自分がこの本を読むには値しないということもわかった。何しろ肝心の作品自体をほとんど見ていないのだ。何人か知っている女優や作品もあるが、たぶん通してみた作品は10本もないはず。女優もロマンポルノ末期のアイドル的に可愛い女優か、一般映画で名を成した人しか見ていない。作品を知らないで解説本を読むのはあまりにまぬけすぎる。

圧巻なのは、ロマンポルノに出演した男優についての章。女優についてはすでにいろいろなことが書かれているが、男優できちんとしたことを書ける人はめずらしいだろう。よほど多くの作品を継続的に見ていなければ、そして映画として注意深く見ていなければ書けない。ロマンポルノ専業だった俳優から、一般映画から出張してきた俳優、ロマンポルノから巣立って一般映画に進出していった俳優、いろいろな人が出ていて、70年代から80年代にかけての日本映画を支えていたことが実感できる。

巻末に、著者が88年の『キネマ旬報』に書いた、「ロマンポルノ・ベスト45」のリストが出ている。この中で自分が見たことがあるのは3本だけ。「狂った果実」「セーラー服 百合族」「ラブホテル」で、ほかはタイトルだけ知っている作品が10本くらい。ロマンポルノは、あまりCS放送ではやらないのでレンタルビデオ屋に行かなければいけないが、やはり見るべきなのか。

あとがきで、韓国で開かれた日本映画祭(周知のとおり、韓国で日本の一般映画が見られるようになったのはごく最近)で、ロマンポルノを上映作品に含めたところ、右翼と左翼の両方(韓国ではなく、日本のそれ)から文句がついたそうで、それには相当怒っている。映画などあまり見ない人のロマンポルノに対する評価などそんなものだろうと思うが、このくだりで著者がロマンポルノを広く知らしめることにいかに情熱を傾けているかがわかる。このエネルギーには脱帽するばかり。