精神論抜きの電力論

澤昭裕『精神論抜きの電力論』新潮新書、2012


電力供給をどうするかについての著者の持論を開陳する本。著者はもともと原子力発電は将来も残し(2030に総電力の20%)、現行の電力会社による発送電統合体制の分割にも反対というスタンスをとっている人なので、この本でもそういう議論を展開している。

著者の議論のうち、比較的受け入れられるのは、再生可能エネルギーの高コストと供給不安定を指摘して、再生可能エネルギーは、代替エネルギーの主軸にはなり得ないと論じている部分。確かに太陽光発電風力発電は、代替エネルギーとしてあまり重要なものにはなりそうもない。しかし地熱発電などにはあまり関心を払っているようには見えないので、再生可能エネルギー全部に対してネガティブな態度でいいかのかどうかは若干疑問を感じる。

火力発電については、天然ガスLNGに限定して議論しているが、ロシアからパイプラインを引いて液化しないで供給する方式のことは何も言及していないので、その点は疑問。しかし石炭火力は低コストで、窒素や硫黄の排出物も相当少なくできるのだから、これをより重視していくべきだという議論には納得する。

電力供給体制についての著者のプランは、東日本(東京、東北、北海道)と、西日本(沖縄を除く西日本の5電力会社)に合併してしまい、発電、送電、配電は同じ会社として、小売部門だけ切り離す、さらに原子力発電は既存の電力会社から切り離して、国と共同出資の会社を作って独立させるというもの。これをやるには巨大な政治的エネルギーが必要で、実現可能性はあるのかどうかはわからないが、発送電分離よりも上流部門を統合する方がよいr効率的だという。

個々の議論には、いずれも他国での実績を中心に細かいデータがつけられているので、説得力はある。「東電たたき」「再生可能エネルギー礼賛」はあまり意味のない議論だという著者の立場には聞くべきものがある。