無芸大食

田辺聖子『無芸大食』、ポプラ社、2009


「Tanabe Seiko Collection 6」となっていて、田辺聖子の既刊本から、再編集したもの。引き抜いてきた元も文庫本である。田辺聖子くらいえらくなると、そういうことをしてくれるらしい。

そういうわけでできた短篇集だが、この本のネタは、「食べ物」と「性」。食べ物のほうは、いわしのてんぷらとか、オムライスとか、そういうおそうざい。「あぶたま」という油揚げを刻んで煮付け、卵でとじるという食べ物ははじめて知ったが、元のだしがよければ非常においしそうだ。肉がぜいたく品だったむかしのおそうざいだろう。だいたい出てくる料理は、そういうあまり手間のかからないものだが、どれもおいしそう。

性のほうだが、58歳の「ハイミス」(これは死語だし、58歳の人には使わないだろう)の女が、話がおもしろく微妙に口説くようなことを言う男友達を見つける話とか、50歳の妻にラブホテルに誘われる話とか、勝手に男と出ていった妻が、男と別れてなんとはなしに遊びに来る話とか、エロというには微妙な話ばかり。昼ドラのようにドロドロした話はまったくなく、それでいて男女関係の話にぜんぜん立ち入らないのは大人の話にならない、というきわのところを上手にまとめている。風呂で脱糞する話も田辺聖子が書くと、不潔感がなさそうな気にさせるのもふしぎ。