鉄道と国家

小牟田哲彦『鉄道と国家 「我田引鉄」の近現代史』、講談社現代新書、2012

鉄道と政治の関係についての本。このネタは掃いて捨てるほどあるので、何を取り上げているのかと思ってみてみたら、

概論(軌間論争、鉄道国有化、軍と鉄道)
政治家と鉄道(井上勝、後藤新平佐藤栄作
路線敷設(建主改従論、中央線の大八回り、上越新幹線
駅設置(岐阜羽島駅深谷駅急行停車問題、南びわ湖駅
赤字路線維持(田中角栄、美幸線、東日本大震災被災路線)
海外輸出(中国高速鉄道台湾新幹線高速鉄道輸出の今後)

という内容。ちょっと盛りすぎだろうと思ったが、やっぱりそのとおりで、ちゃんと調べて書いているのだが、それぞれの節で一冊本が書けるくらいの内容なので、個々の問題に対してはそれほど突っ込んでいるわけではない。

それでも岐阜羽島駅の設置では、必ずしも大野伴睦が強引に駅を作らせたというわけではなく、岐阜県国鉄の調停をやっただけ、という話は知らなかったから勉強になった。といっても、現に岐阜羽島駅がどうにもなっていないことを考えれば、あまり地元の論理を持ち上げるのもどうかとは思うが。

海外輸出の問題は、それ自体はおもしろいが、著者は中国や台湾の国内政治と鉄道について詳しく知っているわけではないので、ここだけ浮いている。この章はなくてもよかったかもしれない。

巻末の参考文献一覧を見ると、個々の問題についてのモノグラフや資料はあっても、政治と鉄道の問題を全体的に取り上げた本はこれまで出ていないらしい。その穴を埋めたことと、この本が新書で出ていることを考えると、あまり多くを一冊の本に要求するのは適切ではないと思う。とりあえず、読んでいておもしろい本であることは確か。