裏支配

田中良紹『裏支配 今明かされる田中角栄の真実』、広済堂出版、2003

著者は元TBSのドキュメンタリーディレクター、政治記者で、TBSを退社後、「国会TV」を設立した人物。「国会TV」の経営が立ち行かなくなった後は、フリーのジャーナリスト活動に注力していて、衛星放送にひんぱんに出演し、ブログも精力的に書いている。

この本は、田中角栄のところに著者が番記者として出入りする過程で見聞した、ロッキード事件から竹下内閣退陣までの政治家たちの行動をつづった部分と、著者が国会TVを設立した経緯をつづった部分からできている。

前半の田中角栄の没落とその後の部分は、ほとんどが著者が直接見ていた記録に基づいていて、おもしろく読めた。政治家自身がちゃんとした回顧録を書かないから、周辺の人達の記録に頼らざるを得ないのだが、田中角栄ロッキード事件での逮捕後もどのように権力を維持していたかについて、生々しく書かれている。

ここまでだと類書もあるので、それほどにはユニークではないのだが、著者がテレビ局を退社して、自分で「日本版C-SPAN」を設立しようとする過程の話がおもしろい。著者は、日本政治が「裏支配」で動いている原因は、国会審議が出来レースだからで、そうなってしまうのは、国会で何が行われているかがきちんと国民に伝わっていないからだと考えて、日本にも「国会の本会議と委員会審議のすべてを編集なしで放送する局が必要だ」という結論にたどりつく。

問題は、それを実際にやろうとすると誰が邪魔をするかということで、最も邪魔をしてくるのがNHK、民放を含む既存のテレビ局。自分たちの既得権益=情報ルートの独占が奪われると一番困る人達だから、これはまあ当然。しかし他にも衆議院参議院の事務局とか、郵政省(当時)とか、いろんな人達の邪魔が入ってくる。この経緯の記述が一番おもしろい。

ブロードバンドでの動画配信コストが非常に低くなり、素人がどんどん動画を配信できる現在になってやっとできるようになったことの必要性をこの人は10年前にわかっていたということ。特に新聞やテレビが「情報を編集していて、かつ伝達経路を独占的に支配している」ことがどういう意味をもつかに気づいて、それを切り崩そうとしていた先駆者の一人というわけである。

メディアについては、別に本も書いているので、そちらも読むことにする。