作られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史

輪島裕介 『作られた日本の心神話 演歌をめぐる戦後大衆音楽史』、光文社新書、2010

これは議論の余地なく名著。演歌は日本の心だよ、という言説が、いつ頃からどのようにして形成されてきたかという問題についての分析を通じて、戦後日本の大衆音楽史を解剖していく本。

録音を通じて大量に流通する、レコード歌謡登場以後の日本の音楽が、どういうシステムで成立してきたか、レコード会社と歌手、作詞家、作曲家の専属制度といった基礎的なことから始めて、それらの制度が解体した後で「演歌」が登場してきたこと。「演歌」と言う概念自体が1960年代末から登場してきた比較的新しいジャンルであること。「演歌」と政治的左翼思考、反体制思考との関係。「演歌は日本の心」という言説がいつ頃から誰によってなされてきたかという問題。

どのページを読んでも新しい発見ばかりで、単純な歌謡曲リスナーだった自分には、驚くようなことが頻出。なまじある程度知ってると思っていたことだけに、自分の認識がどのくらい後付で形成されてきたかということに改めて気付かされた。

第33回サントリー学芸賞芸術文学部門受賞作。さすが学者の渾身の作品とうならされる著作。とにかくためになるだけではなく、どこを読んでも面白い。個人的には.演歌と軍歌の関係の部分に非常に惹かれた。