書店繁盛記

田口久美子『書店繁盛記』、ポプラ社、2006

著者はジュンク堂社員(刊行時点ではいまはなき新宿店勤務)。前職はリブロ勤務だったという大規模店の書店員。大きな本屋で、書店員がどのように売れる工夫をしているか、書店員が担当する棚の品揃えをどのように決めているのか、といったリアル書店(通販ではない)のようすがよくわかる本。

中身はさすがにジュンク堂という感じで、そのジャンルの本全体の状況を知らなければ書店員はつとまらないということがわかる。ある意味図書館員と近いところがある。また、同じように大きな書店が林立している中で、どうやって集客力を高めるかというのは、書店員の知識と努力にかかっているということも発見の一つ。

とほめておくのはここまでで、著者が「アマゾンが特定の本に対して販売拒否をしている」と主張している部分は見過ごせない。著者がそのように判断する根拠は「特定の本がアマゾンで長く品切れ状態になっている」「その本が、規制緩和についてのアメリカ政府の日本に対する圧力を指摘している」というもの。考えてみればわかるが、そんなことでアマゾンが「販売拒否」をやっていると判断するにはあまりにも根拠は薄弱。アメリカが日本に圧力をかけていると主張する本など掃いて捨てるほどあるのだ。一冊そういう本が入荷しないからといって、政治的な販売拒否だなどとどうしていえる?しかもアマゾンになければ、他のネット書店やふつうの本屋に注文すればすむことなので、そんな行為に実質的な有効性があるとは思えない。アマゾンの地位はそれほど独占的ではないのだ。結局著者の記述は憶測に基づく中傷と言われても仕方ない。

さらに笑うのは、その後の記述で『マンガ嫌韓流』を、コミック部門の担当者が「マンガのレベルが低いので売り場に置きたくない」と主張して、書棚においていないと書いてあること。なんのことはない、特定の本を自分勝手な理由で置いていないのは、ジュンク堂自身がやっていることだ、というおはなし。あきれてものも言えない。しかも明らかに著者の書き方は『マンガ嫌韓流』に好意的でなく、テレビの取材に対して、「ウチでは大きく取り上げていませんよ」という態度を示すのに必死。

こんな書店員が「書店の社会的責任」を口にするのだから、開いた口がふさがらない。結論としては、本屋など信用せず、いろいろなところから自分で本を探す努力をしていなければダメということ。