最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術

橋下徹『最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術』、日本文芸社、2003

今をときめく橋下徹大阪市長の著書。はてブで紹介されていたので図書館で借りてみたのだが、これは非常におもしろい。著者が政治家になっていなかったとしても、内容だけで勝負できる本。

基本的には示談交渉をどうすすめるかについての、著者の実践的なテクニックと体験談。従って、法律の話はほとんど出てこない。示談交渉の相手は法律家ではないのだからあたりまえだが。しかも示談の相手は、だいたい法律家の権威など鼻も引っ掛けないような人間ばっかりだ。そういうのを向こうに回して、どうすれば自分の言い分を通すかということについての著者の戦術がわかりやすく書かれている。

「脅し」と「利益」、最初の接触で勝負が決まる、交渉での意思決定は一回限りにすべし、等々、どこを読んでも納得させられることばかり。というか、無駄な部分がまったくない。橋下徹が、「ハシズム」とか言っている学者に異常なくらい噛み付いている理由もちょっとわかる。この本を読むと橋下徹が「口舌の徒」=理屈をこねる以外に役に立たない人間を非常にバカにしていることがわかるし、橋下徹の批判者=山口二郎とか、香山リカとか、そんなのほっておけばいいんじゃないのか?と思う人々と「プロレス」して見せることが、観客の橋下人気を上げることになるのを計算してやっているだろうと思う。実際、山口母子殺害事件の「弁護士懲戒請求キャンペーン」は、法律的には橋下徹の負けでも、彼の名前を売るには非常に役に立っている。やりすぎのようでも、割りに合わないケンカはしていない。

この本に書いてあることのほとんどは、法律の勉強などしても手に入れられないようなことばかり。橋下徹がよくない育ちの中で学んだことも入っているとは思うが、それより弁護士になってからの経験から着実に学び、失敗をムダにしない人だからだと思う。こういう人物を「扇動家」と非難するほどバカげたことはないので、そんなことを言っている人たちは結局戦略的に行動できていないのだ。橋下徹にとってはいい引き立て役になってるだけ。

橋下徹がテレビで売出し中だった時代にマイナーな出版社から出た本だけに、再版はないだろう。定価は1200円となっているが、アマゾンでの古書価は6000円から8000円くらい。図書館で読めたのだから自分はそれでいいが、橋下徹の論敵はどうせこの本を入手するくらいの努力もしていないだろう。まあ、平松邦夫程度では橋下には勝てないのは当然。政治家は人がいいくらいでは務まらない。