平家の群像

高橋昌明『平家の群像 物語から史実へ』、岩波新書、2009

平氏政権の人々を史実に照らして描くという本。著者は『平清盛 福原の夢』で、すでに「平氏政権=六波羅幕府」論を唱えているので、この本はその続編のようなもの。主に取り上げられているのは、清盛の孫、維盛と、清盛の五男、重衡。

内訌がけっこう詳しく描かれている源氏側に対して、平氏側はまとまっているような印象を受けるが、それは「平家物語」の記述がそのようになっているだけのことで、実際には平氏政権の人々にも、複雑な競争や対立があったことがさまさまな事例を元にして示されていておもしろい。いちおう「平家物語」を知っている程度の読者が前提とされているが、官職や位階についても親切な注記があり、中世史好きの人にはとてもおもしろく読める。

維盛の「天下乗合」事件が、清盛の差金ではなく、むしろ重盛主導であったこと、平氏一門の母親による序列と、出世のスピードの格差、そもそも平氏一門には、政務、有職故実に通じたものがほとんどおらず、朝廷の会議を平氏一門で牛耳るなどということはほとんどできなかったことなど、よくわかっていなかったことがいろいろ書かれていてほんとうに勉強になった。

読了して、あらためて平家物語を読みたくなった。角川文庫版を買ってみようかな。